Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第4回 
魚は大分、野菜は東北・大阪から。
素材の声にみみをすませたくなる引き算の料理

 2004年10月、大阪で17年と3カ月続けた店は惜しまれつつ閉店。翌月11月、東京・六本木の地にて、新たな「さかなのさけ」として生まれ変わりオープンした。

 ここでも、「さかなのさけ」はお客に支えられる。大阪でひいきにしてくれた客が、東京出張のときに寄ってくれたり、「六本木にいい店ができたで」と宣伝してくれたのだ。『dancyu』などの雑誌でも紹介され、順調にファンを広げていった。
 えっちゃんが東京に移っていちばん苦労したのは、食材集めだったという。
「最初は築地に通ったりもしたんですが、広すぎてうまく選べない。やっと手に入れたものも、満足できませんでした。味のしっかりのった白身魚がほしかったのですが、どれも淡泊すぎて……。野菜も気に入ったものに出会えませんでした」
 朝9時ぐらいまでに行かなければ場内市場は閉まってしまうのも、体力的にきつかった。なにしろ、えっちゃんが仕事を終えるのは毎日深夜3時すぎだ。
 それからは漁港から魚を直送してもらったり、有機野菜の宅配を利用してみたりと試行を繰り返し、たどり着いたのが現在の仕入れ先。魚は大分と大阪から。野菜は東北と大阪から。
「いまは納得のいく食材を揃えられて満足しています」

 丹波の黒豆のようにつややかな瞳をさらに輝かせ、えっちゃんは言葉を継いだ。
「25年、この仕事をやってきましたが、いまがいちばん充実しています。
 だって東京のひとって、みんな疲れているでしょう。満員電車に揺られて、たくさんのストレスを抱えながら、必死でがんばっている。そんなひとがうちの店に来て、料理を食べて、おいしいお酒を飲んでいると、みるみる元気になっていくんです。わたしたちの店が、お客さまの『元気の素』になっているとしたら、こんなに嬉しいことはない。その喜びが、わたしたちの『元気の源』でもあるんです」

豊後水道で揚がったマナカツオを見せてくれるえっちゃん。「ぼってりとしておいしそうでしょう?」

豊後水道で揚がったマナカツオを見せてくれるえっちゃん。「ぼってりとしておいしそうでしょう?」



 夜も更けた。
 ひととおりの注文をさばき終えたのだろう。凛とした背中をくるりと反転させて、やわらかな笑顔で話すえっちゃん。調理台の目の前のカウンター席を陣取る私は、そのたたずまいを眩しく見つめた。

 彼女の料理は、やさしい味わいなのに、ひとたび口にしたらその一品としっかり向き合いたくなる強さがある。
「新レンコンといんげんのゴマ酢」に箸を伸ばしながら、「外柔内剛」という言葉が頭をよぎった。みかけは穏やかだが、芯に強い意志を秘めている料理。
 そして、気づく。料理は、そのひと、そのものだと。
さかなのさけ
  • 住所:東京都港区六本木3-8-3遠藤ビル1階
  • 電話:03-3408-6383
  • 営業時間:
    18:00〜24:00
    日曜・祝日休み、月曜不定休

和モダンな佇まい。扉を開ければ、えっちゃん劇場の幕開けです。

和モダンな佇まい。扉を開ければ、えっちゃん劇場の幕開けです。