いいときも悪いときも、お客さまに支えられて
えっちゃんと秀嗣さんには、人をひきつける魅力がある。磁石のようにいろいろな人が集まってきて、店を開くにあたって重要なブレーンもそうした「縁」がきっかけで見つかった。
店の内装を担当したデザイナーも、「えっちゃんの料理を、こだわりの純米酒で」というコンセプトの要である酒の仕入れ先「山中酒の店」との出会いも大きかった。
そして、1987年7月、「さかなのさけ」はオープンを迎える。えっちゃん30歳、秀嗣さん39歳のときだ。
時代はバブル景気に沸いていたこともあり、すべり出しは好調だった。途中、客足が鈍る時期もあったが、オープンから半年もたたない87年12月に、関西で絶大な人気を誇る料理雑誌『あまから手帖』で紹介されると、「忙しさで目がまわるって、ほんとうにあるんだなって実感」するほどの繁盛店に。
「お客さまを迎え入れるより、満席でお断りすることのほうが多い日がしばらく続いて。嬉しいより悲鳴をあげたくなるぐらいに体がしんどくて、何度も投げ出したくなった。水道の蛇口をひねって水が出るまでの時間がおしいくらいでした」
笑顔になれず、イライラが募り、「自分たちのやりたかった店ってこんなんだっけ?」とつい思ってしまうときもあった。それでも、お客が幸せそうな顔で、
「ありがとう。おいしかったよ」
と帰っていくのを見ると、「ああ、やっぱり明日もがんばっておいしいものを作ろう!」と元気になれる。
「わたしたちは、本当にたくさんのお客さまに応援してもらったと思います。どうにも暇なときに、たまりかねてよく来てくださっていた方に電話すると、『すぐ行くで!』と駆けつけてくれました。いいお客さまに恵まれたのは、わたしたちの財産ですね」