珍しい西の魚を、いちばんおいしい食べ方で
つきだしの次に私がお願いするのは、大分の水産業者からほぼ毎日空輸で直送される旬の魚たち。
杵築、臼杵、日出、蒲江、津久見、佐賀関などの漁港で朝水揚げされたものが、その日の午後には届いているというから鮮度は抜群。しかも、四国・愛媛と九州・大分に挟まれた豊後水道は潮の流れが速く、獲れる魚は身が引き締まり、脂が乗っているといわれる。関サバ、関アジ、城下カレイなどブランド魚が多いのは、この水域が恵まれた漁場だからだ。
4月のある日にいただいた、関アジのレモン塩。ぴかぴかと光り輝く肉厚のアジに、塩をぱらり、レモンをきゅっと絞って。醤油では強すぎるから、最小限の塩と酸味でアジそのものの味わいをどうぞという配慮が憎らしい。
マナカツオという魚になじみがなく、お造りをいただいたとき。そのねっとりとした初めての味わいに驚くと、
「まあるくてぽってりとした魚なんですよ、ご覧になりますか」
と言って、冷蔵庫から二枚おろしにしたマナカツオを見せてくれた。私は魚の形はもとより、その下処理の美しさに感嘆した。なんてきれいでていねいな仕事をする方なんだろうと。
職人なんだから、当たり前じゃない。そう思われるかもしれないが、私が驚くのは、えっちゃんが料理学校や和食店で修業をした人ではないからだ。
「日本料理」とか「割烹料理」を名乗っていても、高いだけで疑問符を抱えてお勘定を済ませる店もある。
でも、「さかなのさけ」でそんな落胆を味わったことはない。食べたことのない魚や野菜にわくわくし、定番の料理に「やっぱりおいしい」と心温まる。
帰り道は、つい今ましがた食べた料理の数々を反芻しながら、えっちゃんの背中を思い出していた。どうやってあの域に到達したんだろう、と。