Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第4回 
魚は大分、野菜は東北・大阪から。
素材の声にみみをすませたくなる引き算の料理

旬を告げるつきだしから幕は上がる

日替わりのつきだし。

日替わりのつきだし。この日は青森からの山菜「あまどころのマヨネーズ添え」(注)料理はそのときどきによって異なります。



「あまどころのマヨネーズ添えです」
 どんなに疲れていても、胸につかえる何かを抱えていても、「さかなのさけ」のつきだしを口にした途端、そんな諸々はどこかへ吹き飛んでしまう。にぶっていた味覚がにわかに呼び覚まされる感じ。青森や大阪からやってくる珍しい野菜や山菜をおひたしや胡麻和え、白和えなどに仕立て、最初の一皿とするのがこの店の流儀だ。
「あまどころはアスパラのような茎をしたユリ科の山菜なんですよ」
 えっちゃんに教えられながら、色よく茹でられたひと茎を噛むと、しゃくしゃくと顎の奥で小気味いい音がし、瑞々しさと甘みが広がる。酸味のおだやかな自家製マヨネーズをちょんと添えていただくと、青々とした山菜の生命力がさらに増した。
 つきだしを食べ終え、最初のビールを空にしたころには、おいしいものを食べることしか頭の中にはない。
「さかなのさけ」の夜は、いつもこうして幕を開ける。

 えっちゃんの料理は、和食がベース。出汁が料理の土台を支えている。にんにくやスパイス、濃厚ソースなどガツンとした刺激で食欲をあおるわけではない。むしろ、肉でも魚でも野菜でも、本来の持ち味を引き出し、食べ手に伝わるよう配慮している。
「野菜でも魚でも、まず生の状態で味見をするんです。魚だったら脂の乗りはどうか、淡泊なのか濃厚なのか。野菜の苦み、えぐみ、甘み、水分、歯ごたえは……。どんな調理法が向いているか、どうやったらおいしく食べられるか、材料に教えてもらっている感じです」

 そうやって吟味され、ていねいに手を加えられた料理は、個性を大事にされ、のびのび育った子どものように、どれもイキイキとしている。

 たとえば、4月中旬から5月いっぱいが旬の山菜「しどけ」の胡麻和え。「たかが胡麻和え」と侮るなかれ。しどけの淡い苦みとすり胡麻のこっくりとした密度。さりげないけれども、素材の勢いに静かにうなる。行儀悪いことを承知で、器を抱えて無心に食べてしまった。
 あるいは、たけのこの山椒煮。色白のたけのこを想像していたら、うす飴色に輝くたけのこがキリッと冷やされて出てきた。すうっとする山椒の香りと歯ごたえは、いまも忘れがたい味わいだ。