Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第3回
リストランテ級の素材にこだわり、
気軽な価格と直球な味で楽しませるイタリア酒場

日常の延長にある気軽さ。でも記憶に残るクオリティ


 そして、2011年4月24日、オープン。
 勢いのある手描きの「m」の文字が印象的な「mescta」のロゴは、『アモーレ』時代のお客さまだったグラフィックデザイナーの長友啓典さんが「開店祝いに」とデザインしてくれたもの。厨房のタイルに描かれた陽気なイラストは、長友さんのお弟子さんの画である。
「みんなが笑顔でごはんを食べてにぎわっている、楽しそうな店にしたい」という美樹さんのイメージを絵にしたものだ。
 価格を抑えることにこだわった料理は、600円から1300円の価格帯が中心で、高いものでも、熊本のブランド牛「あか牛」を使ったローストが2970円だ。ドリンクも、グラスワイン500円から。ボトルは4000円代が中心と、リーズナブル。
「値段を安くすることに、同業者の友人たちは大反対でしたね。パスタはだいたい1600円とか1700円とかするのに、私はミートソースの値段を980円に抑えた。自信がないのかとか、そんな値段じゃ続かないからやめろと言われました。でも、オープンから1年たちましたが、この値段でちゃんと利益もいただいてやっていけている。どうだ、という感じです(笑)」

 8月に、父親から修業時代の仲間だったニコさんにバトンタッチ。長く東京の人気イタリアンで働いてきたニコさんは、イタリアワインに精通しており、お客の好みをうかがいながら、美樹さんの料理に合わせたワインを選んでくれる。美樹さんにとって、信頼のおける相棒だ。
 オープン当初から店は雑誌で取り上げられ、すぐに予約の取りにくい人気店となった。しかし、美樹さんは有頂天になることは決してない。むしろ冷静に、粛々と、自分がこだわる料理、やりたいことを実践しているように見える。
「やりたいことをやるというのは自分のエゴのようですが、店は、私が発信する場所だと思っています。日本には、イタリア料理を普及させた諸先輩方がたくさんいます。イタリア料理には、前菜があって、パスタがあって、メイン料理を食べるという順序がある。それが基本であり、そうした伝統は大事なのですが、でも、それだけがイタリアンだと敷居が高くなってしまう。
 たとえば、とんかつ屋に行くときは、とんかつ目指して食べにいきますよね。イタリアンの世界にもそういう店があっていいんじゃないかと思うんです。『パスタ食べたいな』とか『あそこのハムカツ食べたいな』というような感じで、店選びをする。私が目指しているのは、そういう日常的な、なんてことのない料理。でも、そっちのほうが、意外と記憶に残るんですよね」

 正直、ここまで流行るとは思ってもみなかった、という。勝ち気な美樹さんの表情が一瞬曇った。が、すぐに「でも」と力のこもった瞳を取り戻し、
「流行り廃りに翻弄されず、常に、自分が納得した食材、いいコンディションのものを出し続けるほかないと思っています。たとえ、お客さまにそれがわからなくてもクオリティは絶対に下げない。わかるかわからないかではなく、私自身の問題ですから」

 背筋がのびた。仕事にかける真摯な姿勢。プロであることの自負。そんな精神をもったひとの手から繰り出される料理を、私はもっと知りたい。
「メッシタ!」
 高らかにその名を呼び、今宵も目黒へ向かう。

メッシタ
  • 住所:東京都目黒区目黒4-12-13
  • 電話:03-3719-8279
  • 営業時間:
    16:00〜
    日曜休み(祝日営業)
  • http://mescita.jp
目黒駅から東急バスで「元競馬場前」下車、徒歩2分。目黒駅からは徒歩20分弱。不便を超えた「食べる快楽」がここにある

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