Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第3回
リストランテ級の素材にこだわり、
気軽な価格と直球な味で楽しませるイタリア酒場

3カ月のイタリア食べ歩きで見えた「こんな店がやりたい」

食材業者と話す鈴木さん。食材はイタリアを中心にヨーロッパ直送の野菜や肉を、鮮魚やその他の野菜は週に3、4度、築地で自分の目で吟味し仕入れる

食材業者と話す鈴木さん。食材はイタリアを中心にヨーロッパ直送の野菜や肉を、鮮魚やその他の野菜は週に3、4度、築地で自分の目で吟味し仕入れる


 心身ともに疲れ果て、もう料理の世界から足を洗おうか。そんな思いがもたげ、6年9カ月勤めた『アモーレ』を辞める。
 先のことは考えていなかった。次に何の仕事をするにしても、とりあえずもう一度イタリアに行こう。三度目のイタリアでは、積年の疲労から働く意欲がわかず、ひたすら食べ歩いていたという。
「身も心も『アモーレ』に捧げてしまっていたので、自分がすっからかんだったんです」
 3カ月がたち、帰国。「やっぱり私には料理しかない。でも、店をやるなら、みんなが日常の延長で気軽に利用できる店にしたい」
 こんな料理を出したいというイメージは、庶民的なトラットリア形式の店ばかり選んで食べ歩くなか湧いてきた。
「私がこれまでにイタリアで修業してきたのは、技術を披露するような料理。でも、お客さんが食べたいのはそういうものではない。毎日食べたい料理と、レストランで食べる料理は違いますよね。私がつくりたいのは、毎日でも食べたいと思える料理だったんです。
 たとえば、アンチョビバター。アンチョビとバターを並べて、パンを焼くだけです。毎日食べておいしいものというのは、そういうことです」
 さらに、美樹さんが付け加える。「バイトでもできるような料理に見えるでしょ。でも、そうはならないんです」
 わかる。皿のうえでは素朴な顔つきをしているけれども、口にすると、見くびってごめんなさいと言いたくなる味わいがある。

 価格は抑えながらも、食材にはこだわって質の高いもの、イタリアの本物を扱いたかった。そのためには、極力家賃を抑えたい。自宅から自転車で通える範囲内で……と、条件を絞ったなかで探し当てたのが、目黒4丁目のいまの物件だった。人件費を出せる余裕はなかったため、軌道に乗るまでは父親に手伝いを頼んだ。