Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第3回
リストランテ級の素材にこだわり、
気軽な価格と直球な味で楽しませるイタリア酒場

澤口知之シェフのもとで体を張っての修業時代

豚好きの美樹さんが集めた豚グッズの数々が店内のあちこちに並ぶ

豚好きの美樹さんが集めた豚グッズの数々が店内のあちこちに並ぶ


 学生ビザの期間が切れる1年後、日本に帰国。さんざんなイタリア修業で懲りることはなかった。帰りの飛行機のなかで、「イタリアに行く前に食べに連れていってもらった『ラ・ゴーラ』。あそこで働きたい」と狙いをさだめていたという。
 かつて乃木坂にあったイタリアン『ラ・ゴーラ』は、鬼才といわれる澤口知之シェフの店。100を超えるアラカルトを揃え、美食家たちをうならせた伝説のリストランテだ。
 東京に戻ると、すぐに『ラ・ゴーラ』に電話。とりあえず面接に来いと言われ、出向くと、澤口さんが待っていた。
「1年イタリアに行ったからって、それがなんなんだ」
 いきなり挫かれた。
「もう、すべてのプライドをズタズタにするような怒られ方でしたよ」
 そんな強烈な面接の翌日から、美樹さんは『ラ・ゴーラ』の洗い場に立った。しばらくの間、名前すら呼んでもらえない日々が続く。
「カス、って呼ばれてましたね。最初は澤口さんがどれだけ怖いのか知らなかったから、『鈴木といいます』と言ったら、『ばかやろう、誰に口を利いてんだ』とまた怒鳴られる。とにかく従業員の出入りが激しい店だったから、澤口さんは、すぐ辞めてしまうような人間の名前なんて覚える必要ないって思っていたんですね」
 澤口さんの指示どおりに少しでもできないと、容赦なく殴られた。
「3日目に、もう辞めたいと思った。たぶん、これまでに100回くらい辞めたいと思いましたよ。でも、辞めようとすると引きとめるんです。それで、もう少し頑張ってみるかと思い留まる。また辞めたいと思う。引きとめられて、また留まる。その繰り返しでした」