Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第3回
リストランテ級の素材にこだわり、
気軽な価格と直球な味で楽しませるイタリア酒場

バイトで見た鍋を振る姿に憧れて

トリッパ煮込み(1350円)。トマトで煮込むタイプが多いなか、こちらは鳥のブロードで。モツの味わいがストレートに伝わる一皿

トリッパ煮込み(1350円)。トマトで煮込むタイプが多いなか、こちらは鳥のブロードで。モツの味わいがストレートに伝わる一皿


 鈴木美樹さんは1974年、東京生まれ。将来はキャビンアテンダントにという母親のすすめから、中学から私立の女子校に通った。
「親の敷いてくれたレールの上に一応は乗ってみたんですが、高校になると学校が楽しくなくなっちゃって。途中からほとんど行きませんでした。でも、担任の先生に『そんなんじゃ大学に行けないわよ』と言われて、だったら自分でなんとかしてみせると意地になって勉強して受かった」
 どうやら、無理だとかダメと言われると発奮するタイプのようだ。大学は経済学部を専攻したが、受かることが目的だったため、ほとんど行かずに1年で中退。心配してくれた高校の同級生が、自分の父親が経営するイタリアンでアルバイトをしてみないかと声をかけてくれたのがきっかけで、飲食の道へ。
「それまで料理にはまったく興味なかった。でも、鍋を振っている姿を見ていて、いいなあと思った。料理人になりたいというより、その姿に惹かれました」
 そのイタリアンで3年勤務。社員となって厨房で料理をつくるうち、「本場のイタリアに行きたい。イタリアで働きたい」という思いが強くなる。
 社長は言い出したら聞かない美樹さんの性分をよくわかっていたのだろう。「だったら行ってきなさい」と、日本にイタリア料理を紹介した立役者として知られる堀川春子さんに引き合わせてくれた。
「若くて何も知らないのにイタリアに行ってもねぇ」
 と逡巡する堀川さんに、美樹さんは
「どうしても行きたいんです」
 と食い下がると、「女の子だからしっかりしていて安全なところがいいでしょう」と、外国人のためのイタリア料理学校「ICIF(イチフ)」を紹介してもらう。
 22歳、単身でイタリア・ピエモンテ州へ。2カ月間にわたってICIFの研修施設でイタリア料理の基礎を学び、その後、ピエモンテ州とプーリア州のリストランテで10カ月間研修を受ける。
「さんざんな10カ月でした。言葉がわからず、バニラアイスを指示されているのに、カスタードクリームをつくってしまったり、失敗の連続。怒鳴られるのはしょっちゅうで、フライパンを投げられたこともあった。何をしても思うようにいかず悔しかったですね」