リスクを抑えて、身の丈で勝負
3年は勤めたいと思っていた看護師の仕事に区切りがつく、1年後を開店の目標に定め、それぞれの場で準備にいそしんだ。
朋子さんはパン修業の仕上げに、「バゲットがいちばんおいしいと思った」京都のベーカリーでさらに腕を磨いたことはすでに述べたとおり。知津さんは病院に勤務しながら、物件情報を見たり、起業マニュアル本を読んだり、お金を借りる場合も想定に入れて開業準備にあたった。
お互いに縁のある横浜でやろうと決め、野毛、日ノ出町界隈に絞って探しはじめる。10軒ほどめぐり、いまの場所にたどりつく。
それまで見た物件は家賃が高すぎ、広すぎで、ふたりで切り盛りするには現実的でなかった。ここは8坪と小ぶりなサイズ感がちょうどいい。天井が高くて白い壁は船のなかみたい。家賃も手ごろで、これなら借金せずにはじめられそうだ。内装は自分たちの手で全部やるつもりだし。ランニングコストを考えても、なんとかやっていけそうな気がした。
加えて、空っぽの店舗を前にした朋子さんのひと言が決め手となった。
「これは運命です」
2011年3月、正式に不動産契約。知津さんの退職を待って、4月中旬から本格的に内装工事に着手。といっても、工具好きのDIY隊長の知津さんを中心に、船員時代の友人たちの手を借りての工事。専門業者に任せないとできない部分以外は、ホームセンターなどで材料を買ってきて仕上げた。
市販のものを購入すると数十万円するパンの発酵室「ホイロ」も朋子さんの「原理を知ればつくれるはず!」という頼もしい提案から自作。自分たちでできることは自分たちの手で、抑えられるところはしっかり抑えようと、設備や什器もネットオークションや格安ショップなどを最大限活用。その結果、開業に必要な資金を300万円に抑えることができた。