Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第2回
看板は、毎日焼く「酒に合うパン」。
酒好きなふたりとの会話がおいしい時間をつくる

誰もが「私のとっておき」と言いたくなる店

 横浜といえば中華街? 山下公園? みなとみらい? そんな観光地的な横浜がオモテの顔だとしたら、今回のおんなごはんがある「野毛」は横浜のウラの顔。戦後の闇市から続く野毛には、60年以上の歳月を重ねた店も多い。「福田フライ」「三陽」「第一亭」「武藏屋」「ホッピー仙人」「クライスラー」など、個性あふれる酒場が軒をつらねる。どこも安くておいしくてゴキゲンなこのまちに、またひとつ、新しい魅力が加わった。
[Bakery&Bar YO-HO]

Bakery&Bar YO-HO
横浜・日ノ出町
加藤知津さん
建部朋子さん
お揃いのユニフォームが決まっている元船乗りのふたり

お揃いのユニフォームが決まっている元船乗りのふたり

 ヨーホー? 変わった名前。パンとお酒っていうのも珍しい。店内から漏れる橙色の温かな灯りに誘われて、扉を開けたのは昨年の秋。初めて訪れたのに、あまりにも居心地がよくて、もう何年も前からのなじみ客のようなほどけた気分になった。

 [YO-HO]は2011年5月27日にオープン。主は加藤知津さん(36歳)と建部朋子さん(30歳)のふたり。船乗りのかけ声からとったという店名、錨マークの看板、コンパスやロープなど船内を彷彿するものが飾られ、まるで船底のような雰囲気は、ここが港町横浜だからではない。知津さんと朋子さんは、元船乗りなのだ。

 私が二十歳そこそこのころ、沖縄の小さな島に長期滞在したとき、宿のおとうさんとたびたび漁に出た。空がうす桃色に変わる時分になると、網を引き上げ、「労働のお駄賃だ」と言って、缶ビールを渡された。あのビールは格別にうまかった。
 [YO-HO]に流れる空気には、どこか船上のビールのような爽快さ、心地よさがある。パッと見た感じでは、どこにでもある街場のバーのようだけれど、ひとたびその空気に身をひたせば、不思議とすっと溶け込める。ここには、とんがったり、主張したり、そういうものが一切ない。感じるのはまあるく、おおらかな空気。だからみんながすんなりなじめる。いろんなことをごちゃごちゃ考えずに、思い立ったときにふらりと寄れる日常感。住まいのある東京から横浜の距離が気にならない。私にとって[YO-HO]は、日々の暮らしのひとつになりつつある。