Vita-min(ビタミン)
題字:クレレナ
看板ねこさん

今宵もあのひとに会いに、店ののれんをくぐれば、「いらっしゃいませ」。
温かくて粋で凛々しい、いつもの笑顔で迎えてくれる、そんな素敵な女性たちが切り盛りする「おんなごはん」の物語を綴っていきたいと思います。

「おんなごはん」第1回
酒料理だけではない、
ふくよかな喜びが満ちる和食の実力派

新宿ゴールデン街、3坪6席からのスタート


 千葉の和食屋の娘に生まれた佐和さん。大学は法学部で卒業後は普通に就職しようかなと漠然と考えていた矢先、お母様を亡くす。実家の和食屋はお母様が切り盛りする店だったため、閉店。たくさんの器が形見のように残った。
 実家に戻り、家族のごはんをつくるうちに、「なんだか料理っておもしろい」と思うように。「やるなら年をとってからも食べられる和食屋がいい。一人でも気兼ねなく入れるような小さな店」
 そう決まるや行動は早かった。大学を卒業すると、「エコール・キュリネール(現・エコール辻東京)」の日本料理コースに1年通い、調理技術の基礎を学んだのち、別の料理学校の助手として1年勤務。その後、割烹料理店や居酒屋などで6年、料理人としての経験を積んだ。「いろんな店で学びたいと思って、10軒ぐらい働きました。そのなかで、自分だったらこういうことはしないのにと思う場面もあった。ちゃんとだしをとらないとか、接客が雑だったりとか。若かったから、それが理由で辞めちゃうこともありましたね。でも今考えると、ぜんぶ勉強でした。自分の店ではきちんと丁寧に、正直な店でありたいって思えたから」

白味噌がポイントのまぐろづけとわけぎのぬた600円。料理と酒に合った器を愛でるのも楽しみのひとつ。器の一部は佐和さんの実家から譲り受けたもの。(注・メニューは季節によって変わります)

白味噌がポイントのまぐろづけとわけぎのぬた600円。料理と酒に合った器を愛でるのも楽しみのひとつ。器の一部は佐和さんの実家から譲り受けたもの。
(注・メニューは季節によって変わります)



 そして2003年、31歳のとき、念願の自分の店を開く。場所は、新宿のゴールデン街。3坪弱の狭小な空間は彼女にとって想像をかきたてられるものだったという。
 「ゴールデン街で飲んだことはなかったけど、この狭さが逆に自由にいろんなことができそうで一発で気に入った。家賃が格安だったのももちろんあったけど。そろそろ自分で……と思いついてから決まるまであっという間でした」
 これが佐和さんに舞い降りた最初のお告げ。
 店の名前は、もうずっと前から[やくみや]と決めていた。「料理に添えられた薬味が好きで。店をやるなら薬味たっぷりの“やくみや”にしようって」
 営業時間は夕方6時から深夜12時まで。料理は、いまの[やくみや]とほぼ同じく、旬の食材をふんだんに使った季節料理。ゴールデン街でちゃんとおいしいごはんが食べられる店は希少ゆえ、6席の店内はいつもほぼ満席。「ちょんの間」と呼ばれていた屋根裏は畳敷きでちゃぶ台をしつらえ、8人ぐらいの宴会に使われることも多かったそう。「最高15人入ったこともあって、そのときは天井が抜けるかと思った」。「ゴールデン街においしい和食屋があるらしいよ」と口コミで広がり、一人で切り盛りするのは限界に。そんなころ、相方の朝子さんと出会う。